ハエウジ症とはなんらかの理由により体にウジが寄生してしまう病気です。ハエの種類によってはその生態として動物に寄生するものもありますが、愛玩動物に寄生するものはいません。ウシバエやウマバエという種類がそれにあたりますが、名前の通り基本的には牛や馬に寄生します。これらがまれに犬や猫に寄生することもあるそうですが、ちょっと置いておきます。
今回取り上げたいのは、本当ならば死体や糞に卵を産み付けるはずのハエが生きている動物に産卵してしまい、しかもそれが孵化してウジが動物の体を侵してしまう病気です。もちろん健康体ならばハエに卵を産み付けられることはありません。振り払いますから。逆に言えば振り払うような元気が無いときは要注意です。
基本的には体表の壊死組織、かさぶたなどを溶かして食べるので特異的な症状は乏しく、また毛の奥で進行するので気付いた時には広範囲に至っていることもあります。その中で気づきやすい症状としては臭いが挙げられるでしょう。化膿しているだけでなく、ウジの放つ特徴的な悪臭があります。傷や皮膚炎に伴う多量の滲出液やウジが溶かした液体で毛が汚れることで気づくこともあります。毛色の薄い子ならわかりやすいですね。また、ウジの動きが気持ち悪いのか痛いのか、悲鳴を上げ続けることが多いです。ウジを取り除くと落ち着くので、なんらかの刺激があるのだとは思います。
最もわかりやすいのは、もちろんウジの発見です。上のような症状があり気になってみてみるとウジが落ちていた、体を這っていたというお話を伺うことが多いです。
治療は単純で、ウジを全て除去することです。基本的には皮膚炎がウジの介入で著しく進行したものです。悪化の原因を除去してしまえばあとは、重度ではありますが通常の皮膚炎の治療と変わりはありません。そのためには広い範囲の毛を刈る必要があり、また生きた動物が相手の話なので、処置中にウジが隠れてしまうこともあるのでより広い毛刈りが必要となることもあります。状況によってはハエの産卵が繰り返されてしまうので、可能であれば屋内などのハエが入り込まない場所に移動したり、蚊帳を張るなどの対策も必要になります。そういった対策や、完全な除去が難しい場合にはウジ除去の薬を使うことになりますが、崩壊したウジの体液によるアレルギー症状が出たり、薬そのものの副作用が出ることもあるので注意しなければなりません。また皮膚炎が悪化した結果大きな潰瘍ができていることもあるので、その治療や感染の治療を並行して行っていきます。
ではこの病気にならないためには? 大前提ですが、ハエが寄ってこないようにしておきましょう。屋内飼いならば安心……と言いたいところなんですが、一部のハエは卵ではなくウジをそのまま産み付けることが可能で、建物に入り込んだハエがあっという間に産み付けてしまったという事例もあるようです。それでも屋内であればリスクは下げられます。どうしても外飼いになってしまうのならば蚊帳を張ったり、通気性を良くして臭いがこもらないようにしましょう。
そしてハエが寄るような汚れや皮膚炎が無いように、起きないように注意が必要です。糞便で汚れた下半身のケースが多いと感じますが、首輪の下の炎症に気づかないうちにウジがわいていたという話を聞きますし、熱中症っぽいところに体温を下げようとして水をかけ乾かさないでいたことがきっかけと思われるケースにも出会ったことがあります。ハエの活動が活発な夏場には熱中症もよくあります。濡らすのはいいですがよく乾かしてあげてください。
実はこの夏に、ハエウジ症の患者に2回遭遇しました。そしてそのどちらも外飼いの大型犬で、足腰が弱っていました。大型犬が寝たきりになるとどうしても条件を満たしやすくなると思います。小型犬なら抱っこやお風呂も簡単で、全身の確認も容易にできるものですが、大型犬ではそうはいきません。特別大型犬に多いというわけではありませんが、高齢の大型犬を飼っている方は、特に普段体の下側になることが多いところを気にするようにしてください。
大型犬では床擦れが起きることも多く、これが原因となることもあります。逆にハエウジ症が原因で元気がなくなり、寝たきりになってしまったがために床擦れが起きることもあります。大型犬を飼っている方、飼おうとしている方は、将来動けなくなってしまった時の対処も考えておいてください。
ウジは壊死組織を溶かして食べます。なので変な話なんですが、ウジのついている傷というのは「きれい」なんです。もちろん細菌は入りやすいのですがそういう話ではありません。外傷の治療にあたっては余計なかさぶたや壊死組織を除去する「デブリードマン」という処置をするのですが、これが見事になされている。ハエウジ症の処置を連日行うとウジの残っている傷といなくなった傷の違いに驚かされます。
で、人間の医療の現場では、これを利用した治療法が導入されているそうです。数千年前から記録があり、第一次世界大戦後から第二次世界大戦あたりまでは北米を中心に実用され、その後抗生物質の開発と治療法の発展に伴って衰退したものの、薬剤耐性菌の台頭によって再度取り上げられているようです。視覚的にも感覚的にも嫌悪感強いですが、もし興味があるならば「マゴットセラピー」で検索してみてください。wikipedia見るだけでも感心します。
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